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懐かしい景色を見ていた。

アスファルトの色、微かな木の匂い、アブラゼミの鳴声。

かつて見慣れたはずの光景をもう一度確かめたくて宙を仰ぐと、

そこには青空を切り刻むかのように高層マンションが建っていた。


「残念ですね」


あまりにも長い間そうしていたのだろう。

ベンチに腰掛けたまま、振り返るようにしてこちらを見ていた女性がそう言った。


「ええ。思い出の場所でした」


なんの感慨もなく、眼前にそびえるマンションの姿をカメラに納めてみる。


「写真、お好きなんですか?」

「ええ。割と」


彼女の目の輝きと反比例して、あまりにも退屈に過ぎる自分自身の返答に気付く。

僕は何をしているんだろう。


「この近所の方ですか?」


適当な話題に変えて、早々に去ったほうが良さそうだ。ここには何もない。


「いいえ。この辺はたまたまふらっと来ただけです。今日、はじめて」


やりにくいパターンだ。そう感じた。

騒々しかったアブラゼミたちはいつの間にかすっかり形を潜め、

アスファルトの焦げる音さえ聞こえてきそうな静寂が我々を包んでいる。

昼下がりの日差しがやけに暑かった。

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