勘 |
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僕が今こうやってここにいるのも、ただ単に「死ぬための理由が見つからない」からなんだ。
人は皆いつか死ぬ。
死からは誰も逃れられない。
ならばその「無」と「死」(あるいは再び「無」)の間を埋める「生」とは一体なんなのか?
かつての僕は、常日頃そんなことばかりを考えてきた。
でも、あるとき気付いた。
考えることそのものが「生」であると。
何度も死に損なった僕は今、ただただ惰性で生きている。
思考はとうに停止している。
面倒になったら、すべてを投げて放り出すまでだ。
こんな馬鹿げた思想をまだ若かった頃、当時付き合っていた女房に話していたことをふと思い出した。
・・・まだ信じているのだろうか。
薄々は感づいているだろうに、何も言ってこないところをみると。
あるいは。
Re: まぁ
「好き」と「愛してる」の相違点 |
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彼女のことが好きだ。
でも、「愛しているか」と問われると、途端に回答に困窮する。
先人の知恵を求めてgoogle先生に尋ねてみてもピンとこない。
なんだろう。女房になら面と向かって「愛してる」と言えるのに。
揺らぐ |
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平日の昼間にひとりでいるのは危険だ。
余計なことを考え過ぎる。
仕事に向かう女房を見送り、軽い朝食をとったあと
台所でコーラをちびちびと飲みながら煙草をふかしつつ考えた。
2日前の出来事が、僕の脳裏から離れない。
もっと早く出会えていれば、あるいは・・・、いくつもの仮定が頭をよぎる。
「これからも、今までどおり接してくださいね」
その時はできると思った。だから「もちろん」と答えた。
でも、それがどんなに労力を要することなのか、僕には想像力というものが欠如していたのかもしれない。
正直に言おう。
すべてうまくまとまったはずの今更になって、僕の気持ちは揺らいでいる。
彼女ともっと話をしてみたい。それはどんなに素敵なことだろう。
これは果たして勇気と呼べるのか。ただの不義理ではないか?
・・・いまさら仮定の話をしたところで何も意味はない。
気分を紛らわせるために買い物にでも行こうか。
告白された。 |
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突然の出来事だった、とも取れるし
僕自身も内心「そうなるのではないか」といった、淡い予感(期待?)を抱えていたことも事実だ。
残業を終え、駐車場まで向かう途中で彼女と出会った。
母子家庭でパートタイマーとして働いている彼女と、まさかこんな時間に遭遇するとは。
それは僕にとっては予想外であり、彼女にとっては計画的だったのだろう。
「あれ、家ってこの近所だったっけ?」などと軽い世間話をしているうちに、何人かの同僚が我々の横を通り過ぎてゆく。
少しばかり視線が気になったが、彼女は臆せぬ様子だった。
話題も一巡し、軽い沈黙の後に彼女が上目遣いで切り出した。
「あの。ずっと言おうと思ってたんだけど・・・」
僕は口元の微笑を崩すことなく、「うん。どうしたの?」と促す。
少々わざとらしかったかも知れないが、動じずにいられたのは我ながらたいしたものだと感心した。
僕には妻子がいる。
しかも女房も(部署は違うものの)同じ職場で働いており、日に何度かの接点もある。
僕自身は「女房を心から愛している」とは言えないのかも知れない。
でも、娘たちを愛している。彼女の故郷での生活を愛してもいる。
そして何より、僕には女房をこれ以上不幸せな目に合わせる訳にはいかないのだ。
彼女の質問には短い単語で答えた。
「ありがとう。でも・・・その気持ちに応じることは出来ない」
きっと学生時代の自分ならこんな流暢に返答できなかっただろう。
彼女も僕の女房のことはもちろん知っていた。
ひょっとしたらその返事が聞けることを期待して、夜中にひとりで会社帰りの僕を待ち続けていたんじゃないだろうか。
「自分自身の気持ちに区切りをつけたくて」
彼女はそう言っていた。
あるいは僕も、彼女に何らかの好意を寄せていたのだろう。
でも、既に身動きが取れないことを知っていたし、すべてを失う覚悟なんてさらさらないことも自覚していた。
だから僕はこう答えた。「ごめんね」と。
帰宅後、女房には何も言わなかった。変わらない日常。余計な波風を立てるまでもない。
今日、明日と定休をもらっている。
次に彼女と会うのは月曜日だ。
笑顔で「おはようございます」と挨拶が交わせるといいのだけれど。
#タイトルが何故か文字化けする件。「告白された。」です。
夢 |
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懐かしい景色を見ていた。
アスファルトの色、微かな木の匂い、アブラゼミの鳴声。
かつて見慣れたはずの光景をもう一度確かめたくて宙を仰ぐと、
そこには青空を切り刻むかのように高層マンションが建っていた。
「残念ですね」
あまりにも長い間そうしていたのだろう。
ベンチに腰掛けたまま、振り返るようにしてこちらを見ていた女性がそう言った。
「ええ。思い出の場所でした」
なんの感慨もなく、眼前にそびえるマンションの姿をカメラに納めてみる。
「写真、お好きなんですか?」
「ええ。割と」
彼女の目の輝きと反比例して、あまりにも退屈に過ぎる自分自身の返答に気付く。
僕は何をしているんだろう。
「この近所の方ですか?」
適当な話題に変えて、早々に去ったほうが良さそうだ。ここには何もない。
「いいえ。この辺はたまたまふらっと来ただけです。今日、はじめて」
やりにくいパターンだ。そう感じた。
騒々しかったアブラゼミたちはいつの間にかすっかり形を潜め、
アスファルトの焦げる音さえ聞こえてきそうな静寂が我々を包んでいる。
昼下がりの日差しがやけに暑かった。